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2024.03.17

【連載⑯】「小澤征爾音楽塾のオペラができるまで」:ゲネプロ

WEB連載「小澤征爾音楽塾のオペラができるまで」では、3月15日にロームシアター京都で初日を迎えた「コジ・ファン・トゥッテ」の舞台裏をレポート。第16回は、3月13日(水)に行われたゲネプロ(最終リハーサル)の模様と、小澤征爾音楽塾オーケストラのメンバーに公演に向けた抱負を聞きました。


宮本 明(音楽ライター)

「あとは本番!集中して。でも楽しんで!」
3月13日(水)。最後のリハーサルとなるゲネプロを終えた直後、指揮者ディエゴ・マテウスは、そう言ってオーケストラをにこやかに鼓舞した。

2日前のハウプトプローべに続いて全幕を通しで見ることができたわけだけれど、歌手たちは明らかに一段ギアを上げていると感じる。
とくに2組の若いカップルたちはほぼフルで歌っていると思う。魅力的な声と美しいハーモニー。とくに高速のアジリタまでぴったりと合わせるアンサンブルは、笑うしかないぐらいに見事。本番ではここにさらに何か乗ってくるのだろうと思うとわくわくする。


一方のベテラン二人、とくにデスピーナのバルバラ・フリットリは余裕しゃくしゃくという風情で、演技もまだまだやりきっている感はない。本番で何をやってくるのか、とても楽しみだ。大ディーヴァの演じるデスピーナは、こまっしゃくれた若い娘ではないのが新鮮で、「家政婦は見た!」の市原悦子とか、雰囲気としては「奥様は魔女」のエンドラ(サマンサのママ)のイメージなのだけれど、おわかりいただけるだろうか。

ここに来て、オーケストラのレベルも格段に上がっている。かなり控えめに言って、文句のないレベルのオーケストラだと思う。
塾生たちは相変わらずとても熱心。幕間の休憩時間にもコーチにアドバイスを求めて練習に余念がない。それを休憩時間のあいだずっとやっているし、終幕後もなかなかピットから出ようとしない。スタッフに「撮影があるから」と移動を促されるまで、互いにチェックポイントを確認しあい、実際に弾いてみてと、えんえんやっている。
公演に向けての、塾生たちの抱負や自信の声を拾ってみた。

「《コジ・ファン・トゥッテ》はアメイジングな作品。長い長いリハーサルを重ねてきました。ぜひ劇場へ来て、私たちと一緒に楽しんでください」
「マエストロからは何度も“よく聴いて!”と言われて、アンサンブルが磨かれたと思います。各楽器のやりとりを聴いてください」
「2回目の音楽塾。前回オペラを学んだ経験が生きています。モーツァルトらしさ、モーツァルトの生きた音楽を身体から出したいです」
「モーツァルトの音楽はシンプルなイメージがあるのですが、みんなで合わせるのは難しく、強弱のコントラストも必要です。オペラの伴奏は初めてでしたが、そのアンサンブルはかなり向上したと思います」
「東京から2週間、リハーサルを重ねるごとに毎日良くなっています。みんなの音が変わったし、聴こえるはずなのに聴こえていなかった音が聴こえてきたという変化も感じているので、本番を4回重ねるうちにももっと良くなると思います。楽しみです」
「今まで以上にスコアを読んで、各パートと連携を取るとか、音楽をひとつにすることに重きをおいて学べたことは特別な経験でした。そのひとつになった音楽を体感してください!」
「歌手のみなさんのエネルギッシュな素晴らしい声量と勢いに負けずに、若いメンバーがひとつになって一緒に作り上げたオペラを楽しんでください!」
「素晴らしい指揮者とコーチの皆さんと学べたことを誇りに思います。音楽に向かうパッション、音楽をどう感じるかを教えていただきました」
「若いゆえの失敗はもちろんあるのですけど、何より吸収が早いのがこのオーケストラの良いところです」
「素晴らしい先生方と、全国から集まった素晴らしい仲間たちから、技術的にも音楽的にも多くを学びました。それを発揮できるように頑張ります!」
「今まで考えていなかったことがたくさんあるなと気づかされました。歌と同じように表現して弾くようにと指導していただいたことがいちばん心に残っています」
「3回目の参加です。最初は難しいと感じていた、声を聴きながら、指揮も見ながら演奏することにだいぶ慣れて、周囲の音を注意を向ける余裕もできてきました。今年は今までよりも外国人メンバーが多いので、英語での会話などコミュニケーションが難しい面もあるかもしれませんが、そのぶん活気があるのを感じます。それが音楽にもつながって、モーツァルトらしい、いきいきしたサウンドになってきたと思っています」
「オーディションで選ばれた若い優秀なメンバーが、アジア各地から来ていることがいちばんの魅力。だからこそ、音色もパワフルです」
「素晴らしい先生方と、ゴージャスな時間を過ごすことができました。演奏の技術だけなく、身体的なことや心理的なことを教えていただきました」

コーチたちの表情も柔らかくなったように見える。もちろん若い塾生たちをリラックスさせるためでもあるだろうけれど、確かな手ごたえを感じているはずだ。副塾長の原田禎夫に尋ねた。
「指揮者のディエゴも、ヨーロッパのちょっとした劇場のオーケストラでもこんなに弾けないよと言っている。僕もそう思う。リハーサルを始めた頃とはまったく違います」
指揮者やコーチたちのお墨付きも得た。どこに出しても通用するレベルに成長した小澤征爾音楽塾の《コジ・ファン・トゥッテ》がいよいよ幕を開ける。


【連載】「小澤征爾音楽塾のオペラができるまで」
イントロダクション
#1
#2 オーディションに挑む若き音楽家たち─音楽塾の“主役”、塾生オーケストラ
#3 小澤征爾音楽塾展2024
#4 歌手リハーサル開始!
#5 塾オケリハーサル初日
#6 塾オケリハーサル 2日目─楽器ごとの分奏
#7 小澤征爾音楽塾合唱団─根本卓也さん(合唱指揮)インタビュー
#8 塾オケリハーサル 3日目─弦楽パートのリハーサル
#9 塾オケリハーサル 5日目─カヴァー・キャストとの初合わせ
#10 小澤征爾音楽塾展2024─小澤征爾塾長のスコア
#11 京都リハーサル初日
#12 バックステージツアー
#13 原田禎夫副塾長のスピーチ
#14「子どものためのオペラ」とメインキャストのリハーサル
#15「子どものためのオペラ」楽器紹介編
#16 ゲネプロ
#17 元塾生・大宮臨太郎さん(NHK交響楽団 第2ヴァイオリン首席奏者/サイトウ・キネン・オーケストラ ヴァイオリン奏者)インタビュー
#18 原田禎夫副塾長インタビュー
#19 カヴァー・キャスト 中川郁文さん(ソプラノ)&井出壮志朗さん(バリトン)インタビュー
#20 本番

 

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