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2024.03.19

【連載⑰】「小澤征爾音楽塾のオペラができるまで」:元塾生・大宮臨太郎さん(NHK交響楽団 第2ヴァイオリン首席奏者/サイトウ・キネン・オーケストラ ヴァイオリン奏者)インタビュー

WEB連載「小澤征爾音楽塾のオペラができるまで」では、3月15日にロームシアター京都で初日を迎えた「コジ・ファン・トゥッテ」の舞台裏をレポート。第17回は、2003年小澤征爾音楽塾 塾生・大宮臨太郎さん(NHK交響楽団 第2ヴァイオリン首席奏者/サイトウ・キネン・オーケストラ ヴァイオリン奏者)にインタビュー。音楽塾で学んだことや、昨年と一昨年にセイジ・オザワ 松本フェスティバルで小澤征爾音楽塾オーケストラを指導されたこと、塾生たちに伝えたいことなどお話を伺いました。


宮本 明(音楽ライター )

2000年にスタートした小澤征爾音楽塾。これまでにすでに1,000人を超える塾生が学び、国内の主要オーケストラはじめ世界の音楽界で活躍するそうそうたる顔ぶれを輩出している。元塾生が還って来て現役塾生の指導にあたるケースも。NHK交響楽団で活躍する大宮臨太郎もその一人だ。

2023セイジ・オザワ 松本フェスティバルでの小澤征爾音楽塾オーケストラ指導の模様より

 

誰かに何かを届ける。それが音楽

昨年と一昨年の2回、セイジ・オザワ松本フェスティバルに参加した際に音楽塾を覗いて、がっつり指導というよりは、バランスを聴いたり、指揮者が拾っていないような細かいところをアドヴァイスしました。
僕自身は、桐朋の学生だった2003年の《こうもり》で音楽塾に参加して、小澤さんの、何かを人に伝えるんだというメッセージを強く感じました。自分が作った音を誰かに届ける。みんながそれぞれ持っているものを集約してお客様に届ける。それが音楽でありアンサンブルなんだなと。わかっていたつもりではあるのですが、小澤さんの熱い声と言葉でぶつけられて、学生ながらに、これが音楽なんだと初めて確信したんですね。今のオケ人生があるのは、塾生時代にそれに気づいたからだと思っています。
去年の塾生を聴いていても、その気持ちを感じました。ピアニッシモでただ音を小さくするのではなく、人に届けなければいけない。それで少し音が大きくなっちゃったりはするんですけれども、それよりも、本当に魅力的な音を伝えるんだという気持ち。もしかしたら今の自分が忘れかけていたかもしれないことを思い出して、とても刺激になりました。
僕が音楽塾に参加した当時の仲間も現在いろんなオーケストラで活躍しています。今仕事で知り合う、自分より下の世代の奏者は、ほぼ全員が音楽塾経験者です。そんな、いい意味でのライバルたちの共通言語は、やっぱり小澤さん。小澤さんだったらこう作るよねということが、互いに言葉にしなくてもわかり合える。どんな音を作りたいか、何を伝えたいか。その共通言語を間違いなく持っています。
2005年に小澤さんがN響を振って《運命》などを演奏した時のこと。コンサート当日、本番の直前に、当時N響にいた音楽塾出身の3人が小澤さんの楽屋に呼ばれました。「わかってるね。あなたたちの世代がやらないとダメなんだよ」と強い口調で励まされ、3人ともその場で号泣してしまいました。

2003小澤征爾音楽塾「こうもり」リハーサルより

 

自分の音を聴く

塾生たちにはもう技術的なことを教える必要はないので、僕たちが小澤さんから直接教えられたことを、できるだけ伝えてあげたい気持ちです。本当は世界中を飛び回って毎週のように自分のコンサートを指揮することができた人なのに、これだけの時間を使って、「次の世代に!」と考えて伝えてくれたこと。僕らも熱い言葉で伝えられたらいいかなと思います。
たとえば「もっと自分の音を聴きなさい」ということ。
面白いと思うのですけど、アンサンブルをやるのに、「他の人の音を聴きなさい」ではないんですね。もちろん他の人の音を聴くことは大事なんですけど、それ以前に、自分がどんな音を出しているか、それを考えなさいということ。細かいアンサンブルを気にするよりも、自分がどんな音を出していくかを一人ひとりが考える。僕はそれを今でもいつも心がけています。もちろん、自分の音を聴けたら、他の音も聴けるようになってくると思います。

2023セイジ・オザワ 松本フェスティバルでの小澤征爾音楽塾オーケストラ指導の模様より

 

シンフォニーとオペラ

どの楽器を弾くにしても、音楽のベースはやはり歌だと思います。その究極が人の声。小澤さんは、ただ歌に合わせて演奏するということではなく、一流の歌手たちの歌の抑揚とか表情とか声色、色彩を、自分の楽器に落とし込んでレベルアップしてほしいと考えていたのだと思います。
この音楽塾のいいところは、たっぷり時間をかけて取り組むこと。あらかじめ譜読みしてくるのは当然ですが、中盤になってくると、もうみんなほとんど暗譜しているんですよ。だから、もちろん歌手の声へのアンテナもすごく鋭くなるし、細かなアンサンブルも全部身体に入った段階で本番を重ねることができる。それは大きな体験でした。

音楽塾オーケストラの魅力

このオーケストラは本当に魅力的な音を出すと思います。わくわくするようなキラキラした音がそこらじゅうから聴こえてくる。実際に去年の《ラ・ボエーム》でも本当に素敵なサウンドが聴こえていました。常設のオーケストラと比べても遜色ない、素晴らしいオーケストラだと思います。
僕が小澤さんに言われて今でも刺さっているのが、「音楽をやっててよかったって、いつか絶対に思えるから」という言葉。塾生たちにもそう思ってほしいです。小澤さんの表情や言葉を映像で見れば、何か刺さるものが絶対にあるはずです。音楽塾の映像などがあれば、僕も見て振り返りたいですね。

ジョン・ウィリアムズ指揮 2023セイジ・オザワ 松本フェスティバル オーケストラ コンサート Bプログラムより

 


【連載】「小澤征爾音楽塾のオペラができるまで」
イントロダクション
#1
#2 オーディションに挑む若き音楽家たち─音楽塾の“主役”、塾生オーケストラ
#3 小澤征爾音楽塾展2024
#4 歌手リハーサル開始!
#5 塾オケリハーサル初日
#6 塾オケリハーサル 2日目─楽器ごとの分奏
#7 小澤征爾音楽塾合唱団─根本卓也さん(合唱指揮)インタビュー
#8 塾オケリハーサル 3日目─弦楽パートのリハーサル
#9 塾オケリハーサル 5日目─カヴァー・キャストとの初合わせ
#10 小澤征爾音楽塾展2024─小澤征爾塾長のスコア
#11 京都リハーサル初日
#12 バックステージツアー
#13 原田禎夫副塾長のスピーチ
#14「子どものためのオペラ」とメインキャストのリハーサル
#15「子どものためのオペラ」楽器紹介編
#16 ゲネプロ
#17 元塾生・大宮臨太郎さん(NHK交響楽団 第2ヴァイオリン首席奏者/サイトウ・キネン・オーケストラ ヴァイオリン奏者)インタビュー
#18 原田禎夫副塾長インタビュー
#19 カヴァー・キャスト 中川郁文さん(ソプラノ)&井出壮志朗さん(バリトン)インタビュー
#20 本番

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