アジアの学生のみなさんとの共演についてお聞きします。印象的なことや、音の違いなど感じたことはありましたか?
(塩加井)私の場合、全編通して同じ子が隣の席だったので、仲良くなるのは速かったです。とっても頭が良い子で、練習中にひらがなを覚え始めて(笑)。譜面に書くメモも「ひらがなで書いていいよ」って言ってくれましたね。英語で話してたんですけど「見習わなきゃ」って思って、そこから英語の勉強もがんばりました。台湾の子ですが、今でも仲良しです。
音楽的なことで言えば、音の立ち上がりが意欲的だなと思いました。日本人は周りを伺いながらやる傾向がありますが、彼女に「とりあえずやってみてダメだったら、その時ごめんなさいって言えばいいよ」と言われて「素敵!」って思いました(笑)
しかも同年代から。
(塩加井)そうなんです。そこから割とガツガツいけるようになりました。
(三国)ヴィオラ・セクションというより音楽塾全体に共通することだと思いますが、塾にはおおらかで楽観的で、「なんでもやってみよう!」というタイプの外国の方が多いと思いました。「間違えてもへっちゃら~!」みたいな。私は一音間違えるだけで「間違えた!」って思っちゃうんですけど、隣で弾いてる外国の子なんか “HAHAHAHA~”ってやってるので(笑)、考え方も影響を受けましたね。もちろん間違えちゃダメですが、恐れない気持ちは勉強になったと思っています。
それに、賢い人が多い。韓国語や中国語、台湾語とか教えてもらうんですけど、私が覚えるのに苦労している傍らで、彼らはどんどん日本語がしゃべれるようになっていく。賢くて楽観的って、最強ですよね。自分にはない考えを持ってる人がたくさんいたので、すごく刺激になりました。
(黒川)参加当初、私は不安でいっぱいで緊張していたんですが、外国から来た子たちは最初からすっごい楽しそうだったんです。彼らは知らない土地に来たわけじゃないですか。なのに、「なんでこんなに楽しそうなんだろう!」と衝撃を受けました。私と同じように英語がしゃべれない韓国の子がいましたが、すごく良いチェロの音を出す子で、弾いてる時はお互いに「やってやるぞ!」みたいな感じで弾きあってたんです。言葉でのコミュニケーションには壁があっても、音楽を通じるとすっごい楽しくて。それは他のセクションでも同じだったみたいです。例えば練習が終わって「ここをこうしたい」と伝えたい場合は「こうやって弾けばいい?」って弾くと通じたりする。そういうやりとりができるのは初めてだったから、「こんなのが毎日あったら楽しいだろうな~」って思って過ごしていました。とにかくみんなが「人生楽しい!」みたいな感じで、すごく面白かったです。
2019年「カルメン」子どものためのオペラで指揮をした下野達也さんとの練習風景。ヴァイオリン・パートの最前列に塩加井さん、チェロ・パートの最前列に黒川さん、ヴィオラ・パートの最前列に三国さん。全員楽しそうに笑っている。
これまで音楽塾で学んだことで良い経験だったなと感じていることや、いまの皆さんの背中を押しているようなことはありますか?
(黒川)選びきれない…とにかく “Listen”と “Speak out”、 “Short Bow”です。ショート・ボウはたくさん指導を受けましたが、いま、すごく活きていると感じています。無駄なビブラートやボウイング、指使いをしないことというのを、禎夫先生だけじゃなく川本先生や豊嶋先生、すべての先生から教えていただきました。
そもそもオペラというのが勉強することがいっぱいでした。ステージの裏に行くと大勢の人がいて、美術も海外からのものがあったりして、物作りが好きな私はそういうことにも感動しました。何かを創り上げる大変さも勉強になりました。
そして小澤先生がそこにいらっしゃるだけでこんなに音が違うんだというのを、オケピに入って体感しました。これはずっと忘れられないと思います。今の自分の音楽にも活きています。あの感覚を目指したいというか、そういうのはありますね。
(三国)私も同意見です。それ以外も挙げるとするなら、人間関係とか、音楽以外の面でもすごく勉強になりました。外国の方がいるから、言葉で伝えるより弾いたほうが早いというのはすごく感じました。でも、音楽で伝えるためには自分の技術も必要なんです。自由に弾くためにはその分の技術量も必要なので、「こうやって伝えるためにはこういう弾き方をしないと相手に伝わらないんだ」というのを痛感しました。自分のことだけではなく相手のことを考えて、どう物事を伝えるかというのを勉強したと感じています。
(塩加井)意欲的に何でもしていく人たちに感動しました。「間違えてもいいんだよ」って口では言えても、実際にそれを実行していくって難しいですよね。それをちゃんと実行できる人たちが周りにたくさんいたので、「自分なんか…」って思ったらダメなんだなと感じました。元気に「なんでもやってみよう!」みたいな気持ちで弾くようになりました。
小澤塾長についてお伺いします。『カルメン』では熱く指導されていましたね。
(塩加井)『カルメン』の序曲を指揮されたんですが、小澤さんが(指揮を始めるタイミングで出す声をマネしながら)「あっっ!」って言うだけで、熱量がすごすぎてみんなが入れちゃうっていうのが感動でした。ちょっと面白かったのが、オケピ後方の管・打楽器の人たちは、小澤さんが前かがみで指揮するので見えないんですって。だから、小澤さんの熱量をヴァイオリンの人たちが全員で感じてザッツをすることで、管・打楽器の全員も入れたんです。小澤さんから熱量をいただいて、それをみんなに伝えて、全員でひとつの音楽を創るというのが本当に楽しかったです。千秋楽の時は、みんな泣きながら弾いてたよね。公演が終わった後、川本先生に「今までで一番良かった!泣いちゃった」っておっしゃってもらったのが本当に嬉しかったな。
(三国)私は小澤国際室内楽アカデミー奥志賀でも小澤さんの指揮の下で演奏させていただいたことがあるんですが、本当に命がけで指揮をしてらっしゃるんだなというのを感じました。一回一回の指揮に全身全霊で挑んでいるというのが身にしみて伝わってくるので、こっちもそれに応えないと!と思いながら弾きます。そうすると自然とみんなの集中力が高まって、すごくいい演奏になるんですよ。すごい時間を共有させていただいてるんだなと感じたのが印象的です。
(黒川)『カルメン』は本当に、本当に楽しかったです。千秋楽では小澤さんは指揮されませんでしたが、なんだか、私たちに何かを託していらっしゃったんじゃないかなって、勘違いかもしれませんが感じていました。いざオケピの席に着いた時、今までとは違う感じがしたんです。指揮をしたクリスティアン・アルミンク先生も「今日違うな」みたいな感じでした。なんて言うか…「楽しみたい!」みたいな。とにかく最初の公演から千秋楽までどの時間も楽しくて、今でも思い出すと涙が出てくるくらいです。
今年は音楽塾20周年と節目の年です。特別公演に向けて楽しみにしていることや、抱負を聞かせてください。
(三国)意気込みとしては「楽しむ」というのが第一ですが、個人的には勉強しに行くというのも大きいです。今回は塾生だけではなく先生方やOB/OGさんとともに演奏するのが特別だと思っています。オペラの時は塾生同士お互いに勉強しあって高めあうという感じでしたが、今回はOB/OGさんや先生方もいらっしゃるので、私たちにとっては格好の勉強の場です。足を引っ張らないように、しっかりと勉強して臨みたいと思います。全員で一つの音を創ってお客さんに届けたいなって思っています。
(塩加井)小さな頃から見てきたお兄さん、お姉さんの奏者さんたちと並んで演奏させていただくので、憧れの人の隣で私はなにができるのかというのは挑戦だと思っています。以前、みんなに教えてもらった「やってみよう精神」を忘れないで弾くために、今頑張って練習しています。
(黒川)二人が言う通り、プロの方と一緒に弾けるという機会はめったにないことです。オペラが2回中止になった(*2020年公演予定だった『こうもり』と2021年公演予定だった『ラ・ボエーム』はどちらも公演延期に)りして、私ももちろん、世界中がどこに怒りをぶつけたらいいかわからない状況だったと思います。それでも世界は少しずつ動き出して、こうやって特別公演として開催できるというのは本当に幸せだし、それに携われるのもとても幸せだと思っています。たくさんの方に聴いていただいて、「音楽は良いよ」って、もう一回この公演から伝えていけたらいいなって思います。
個人的には姉と一緒に弾くのは久しぶりで楽しみですし、何より憧れの山本裕康先生や宮田大さん、そして同じ塾生の金叙賢ちゃんとも共演できる舞台を楽しみたいなと思っています。他のセクションも本当に豪華で、どんな音楽になるのか今からとてもワクワクしています。
音楽塾、ずっと、ずーーっとあってほしいです。
(塩加井)自分が年齢や経験を重ねたときに、帰って来られる場所であったらいいなあって思います。
ありがとうございました。
2019年「子どものためのオペラ」で、恒例の楽器紹介の際に司会を務めた三国さん。
2019年「カルメン」。写真左端、コンサートミストレスを務めた塩加井さん。
2019年「カルメン」カーテンコール。
聞き手:小澤征爾音楽塾広報 関 歩美
2021年3月収録